検証と論証2

戻る 上へ 進む

東京都 星野 三郎

 

柔道整復師による健康保険取扱いの現況

 

健康保険法が,大正11年4月22日法律70で公布される。柔道整復師の健康保険(療養費)の取扱いは,幾多の変遷を経て,昭和11年1月22日から可能となり現在に至る。

今日,柔道整復師の一部の者が,健康保険取扱いについて,存続か,変更か,憂慮しかつ危惧を有している。

理法を展開し,柔道整復師の安定と維持を期する。国民は,即ち療養者は,日本国憲法によって,医療機関選択自由権,自己決定権,生存権と健康権が,保障されている。

柔道整復師は,国民の権利を擁護し,公共の福祉,公共の利益のため最大限の努力をすべきである。

柔道整復師の不断の努力によって,既得権が保障されるものと信ずる。

 

柔道整復師の健康保険取扱いの沿革

 

〈通達等の経緯〉

昭和11年1月22

内務省社会局保険部長

被保険者が柔道整復術営業者ニ就キ手当ヲ受ケントスル場合ノ取扱ニ関スル件

 

昭和11年3月28

健康保険被保険者施術協定書

 東京都柔道整復師会会長金井良太郎と警視総監との間で締結された。また,昭和11年に各都府県ごとに所在地の柔道整復師会と協定を結び料金表を定めて,委任払い方式をとって,保険取扱いができるようになり現在に至る。

 

昭和11年4月

警視庁保安部長

柔道整復師ニ関スル件

 

これらの通達は,外科担当の医師数不足,それに加えて,わが国の被保険者が従来の慣習上,特に都市以外において,外科医に受療するよりもむしろ,柔道整復師の行う施術の一部に整形外科医の行う医療方式と同一理論によるものがある等の理由により,被保険者保護の立場から認めるものである。

(「療養費の支給基準厚生省保険局医療課編」から抜粋)

(参考 昭和4年7月31日警視庁は,新たに保安部に健康保険課を設置,この課には,保険庶務係,健康保険事務に関すること,給付係,健康保険審査会にたいする,審査請求に関すること。

徴収係,保険料の徴収に関すること。

しかし昭和201222日,東京都に移管されることになった。)

 

健康保険法第44条ノ2と柔道整復師

 

1)法第44条ノ2,療養費の支給要件と根拠

法第44条ノ2,保険者ハ療養ノ給付,入院時食事療養費ハ支給者ハ特定療養費ノ支給(本条ニ於テ療養,給付等ト称スノヲ為スコト困難ナリト認メタルトキまたハ被保険者ガ保険医療機関等及特定承認保険医療機関以外ノ病院診療所薬局其ノ他ノ者ニ就キ診療薬剤ノ支給手当ヲ受ケタル場合ニ於テ保険者ガ已ムヲ得ザルモノト認メタルトキノ療養ノ給付等ニ代ヘテ療養費ヲ支給スルコトヲ得

 

療養の給付等をなすことが困難なときに該当する主な通達として,次のようなものがあげられる(抜粋)

 

柔道整復師の手当

 

被保険者または,被扶養者が,柔道整復師の手当を受ける必要があるときは,療養費または家族療養費を支給する。

柔道整復営業者の行う骨折,脱臼の手当については,診療担当者の同意を必要とする。

(昭和8年3月30日、係発第796

「ソノ他者」とは医師,歯科医師以外の者で,具体的には,柔道整復師は勿論のこと,はり師,きゅう師もこれに該当するとされている。

保険医療機関等以外で診療等を受けたときの療養費支給要件の緩和がされた。

従来の「緊急其ノ他已ム得ザル場合ニ於テ保険者ガ必要アリト認メタルトキ」を単に已ムヲ得ザルモノト認メタルトキに改正した。

改正理由は,できる限り客観的に療養費の支給される場合をとらえることにし,保険者の裁量の余地を狭めて,被保険者と患者の便利と負担の軽減を図るというところにあるとされた。

(「健康権と健康保険法44条ノ2」)

  金沢大学法学部教授 井上英夫

 

やむを得ない場合とは

 

「已ムヲ得ザルモノ」とは,疾病または,負傷等に際し直ちに診療または手当を受ける時間的余裕のない場合等を意味するものである。

(昭和24年6月6日 保文第1017号)

 

井上教授は,この療養費の支給要件の定め方は抽象的であり,行政解釈としても一貫性を欠き,混迷し,多くの問題が生じていると解説している。

 

公共の福祉と柔道整復師

 

憲法が,公共の福祉の文言をもちいたことによるといってよい。即ち日本憲法は経済生活に関する国民の権利,公共の福祉のもとに保障している。更に,生命,自由及び幸福追及に対する国民の権利についても公共の福祉のもとに保障している。

憲法第12

国民は憲法が保障する自由および権利を公共の福祉のため利用する責任をおう。

憲法第13

国民の権利について公共の福祉に反しない限り国政の上で最大の尊重を必要とする。

憲法第22条1項

公共の福祉に反しない限り居住移転等の自由を保障する。

ここで,公共の福祉という条文は,いったい何を意味するのか,象徴的,形式的には,

社会全体の利益,社会生活について,各人の共通の利益ということになるが,実際にはいかなる利益がこれに該当するのか難解であるが,基本的人権の保障には,公共の福祉に反しない限りという制約がついている。

基本的人権の保障は,公共の福祉に反する場合は,停止される,基本的人権は公共の福祉の枠内で保障されると考える。

従って,柔道整復師の不正行為は(保険請求)公共の福祉に著しく反する行為と論断する。

 

既得権尊重の原則

 

法律不遡及の原則が認められる当然の締結として,既得権尊重の原則がある。

この原則は旧法によって生じた法律関係ことに既得権は,新法の制定,施行によって,

変更または消滅することがなくできるだけ尊重されなければならないということである。

これを既得権不可侵の原則ともいう。これを否定するならば,法的社会生活の安定が著しく害することになるからである。

法律不遡及の原則と同じく法の適用上の原則があり,いわゆる,法的な安定性の要請にもとずくものである。

しかしこの原則も絶対的なものでないから公共の福祉のため,立法政策上の必要から既得権を奪う場合もあるが,しかし,相当な合理的な理由がなければならないというべきである。

既得権の主張,一旦保障した権利の剥奪も引下げは許されないと解するが,仮りに内容的に後退させ水準を引き下げる場合には,相当な合理的理由がなければならないというべきである。

 

憲法第13条(個人の尊重)

自己決定権,医療機関選択の自由が,保障されている。

患者が医療を受ける権利,要するに健康権の追及のための自己決定,選択の自由そして,

平等の観点に基き尊重されるべきである。

 

健康保険取扱いの実績

60有余年にわたり健康保険を取扱い,国民の健康管理に努力,公共の福祉,公共の利益のための実績があり,国民は柔道整復師の業績を認め,かつまた柔道整復師を必要としているので,国民の期待に応えるため,良質な医療を提供するため資質の向上を図り,柔道を通じ青少年の不良化防止と健全育成に努力し,国民のため懸命の努力と奉仕することによって,権益は擁護,維持できるものと確信する。

 

参考文献>

憲法(基本的人権) 宮沢俊義 有斐閣
法学概論 杉山逸男 八千代出版
労働,社会保険の詳説   日本法令
警視庁史(大正編) 警視庁史編纂委員会  
法学序説 斎藤静敬 壮光社